シーラカンスの唄
(……今日何かあったけ…?)
ギリギリの時間だと言うのに人がいつもより少なく、椅子にも座る事が出来た。
これだけで朝から得した気分になれる。
意外に時間があり、のんびりと発車を待ちながら窓の外を見た瞬間。
時間が止まった。
(……え………?)
駅のホームの反対側。
電車を待つ人の中に、見馴れた顔を見た。
(………まさか?!)
それは、居るはずのないアイツだった。
でも……?
そんなはずはない。
アイツは少なくともココには居ないはず。
実家が好きだから、就職する時は実家に帰るって話してたし…。
だけど……。
どう見てもそこに居るのはアイツだった。
私が見間違うはずがない。
アイツがどんな所に居ても。
どんなカッコしていても。
間違えたことなんて、一度だってない。
ずっとずっと逢いたくて。
ずっとずっと逢えなかった。
そのアイツが。
今、電車の向こう側に居た。
慌てて電車を降りようとした瞬間…
時間が来てしまったのか扉は目の前で締まってしまった。
「あ………。」
思わず振り返って見ると、調度、反対側の電車もホームに入って来て、アイツの姿を隠したところだった。