Underground-アンダーグラウンド-
ここは日本国、千葉県。
夜刀は今年入学したばかりの
19歳、現役新一年大生である。
寡黙で気難しく、何故か古臭い口調で話す
彼にとって友人と呼ばれるモノは
皆無に等しいが、他人から見ると
そこそこの整った顔立ちを
しているらしく、こうやって
度胸ある女子からは度々ちょっかいを出され
騒がれる。しかも、本人は自分が何故
そこまで言われるのか全く分かっていない。
つまり、天然なのだ。
《んっふっふ。鞄に荷物を入れる速さ、
また記録更新したわね…?》
屋外を出た所で待ちかねたように
頭の中に“声”が響く。
他人には聞こえない声。
俺だけが聞ける声だ。
正確には一部の人間に、だが。
「……黙れ。」
眉根に皺を寄せ、返答する。
しかし相手はさぞかし楽しそうに
再び独特な笑い声をあげた。
《んっふっふ。…照れ屋さん。》
―――何故そうなる。
大学の正門を出、街の表通りを
駅へ向かって歩きながら
夜刀は何時になく
不毛なやり取りに少しばかり脱力する。
と、そんな夜刀を慰めるかの様に
街燈に明かりが灯った。
辺りは夕闇に包まれつつある。
時計を確認すると
17時02分を過ぎた所だ。
今度は夜刀が“彼女”へ口を開く。
「アホトカゲ…今日は何処で話し合うと?」
《……んー?確か隣町、
君津にある第三会議室だよ。
きっと夜刀が今日はこっちのキャンパスで
講義があるから気ぃ使ってくれたんだよー。》
「…そうか。ならば急ぐとしよう。」
言うが速いが夜刀は地を蹴り、
大きく前へと跳び出した。
長く伸ばし、一つに束ねた
漆黒の後ろ髪を靡かせ、
歩道橋の柵を越えて…。