『若恋』短編集1【完】
奏さんの背中が大きく上下してる。
榊さんの背中も仁さんの背中も。
どんなにか走り回って探してくれたんだってわかる。
「ご、ごめんなさい。はぐれちゃって」
「いい、無事ならそれでいい」
「若、りおさんが怪我してます」
榊さんが振り向いた時に浴衣の裾から覗いた膝から、転んだ時の擦りむいた跡が見えたみたい。
「これは、あの、」
「骨折もまだ治ってないのにな」
仁さんは奏さんを挑発するようなことを言った。
「どうしますか?若」
榊さんも途端に柔らかい口調からドスの効いた低い声になる。
「腕一本では許せねえな」
「顔にも刻んどきますか?」
「そうだな」
「だ、そうだ」
仁さんも3人を睨む。
「何をわかんねぇこと言ってんだバカ」
「バカ?」
奏さんが男の吐き出した台詞にピクリと反応した。
「りおを傷つけて…その上にバカ?」