【短編】優しい、嘘つき
優しい、嘘つき
『さゆ』
優しい声が、耳に響く。
それは全身にゆったりと染み渡り、まるで彼の腕に抱かれているよう。
ごめんね、愛しい人。
あなただけを愛していたかった。
あなたと、あなただけと幸せになりたかった。
ありがとう、愛しい人。
私を愛してくれて。
何度も私を抱きしめてくれて。
さようなら、愛しい人。
もう、約束は叶わない。
きっと何があっても絶対に。
嗚呼、もう時間が来た。
留まることは許されない。
新しい世界へ旅立つんだ。
大丈夫。
忘れたりなんかしない。
忘れるなんか、きっとできないよ。
……―――――だから、
もう、嘘はいい、よね?
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