【短編】優しい、嘘つき
優しい、嘘つき






『さゆ』




優しい声が、耳に響く。


それは全身にゆったりと染み渡り、まるで彼の腕に抱かれているよう。




ごめんね、愛しい人。




あなただけを愛していたかった。


あなたと、あなただけと幸せになりたかった。




ありがとう、愛しい人。




私を愛してくれて。


何度も私を抱きしめてくれて。




さようなら、愛しい人。




もう、約束は叶わない。


きっと何があっても絶対に。





嗚呼、もう時間が来た。


留まることは許されない。


新しい世界へ旅立つんだ。


大丈夫。


忘れたりなんかしない。


忘れるなんか、きっとできないよ。




……―――――だから、






もう、嘘はいい、よね?









.
< 1 / 12 >

この作品をシェア

pagetop