【短編】優しい、嘘つき
「おま…反則だろ…」
力無くそう言って、ぶつぶつと文句を言う真さんを見上げる。
真っ赤になっている真さんと目が合った。
「………っ…」
「ふふっ」
湯気が出そうなくらいに赤くなった真さんを見て笑う。
そんな穏やかで幸せな時間を過ごしていると、ドアが叩かれた。
「――――時間にございます」
あぁ、やっと。
“今行きます”と返し、立ち上がろうとした私を強い力で真さんが抱きしめる。
「まこ…」
「キレイだよ」
ふわっと落とされた言葉。
驚いて顔を上げた先には、優しく微笑んでいる真さん。
「『世界で一番キレイだよ』」
真さんの声に重なる声。
懐かしい、声。
―――――さゆ。
夕日を背にしたあの人が笑った。
「――――ありがとう…」
ほろりとこぼれたつぶやきは、誰の耳に届いたのだろう―――。