【短編】優しい、嘘つき




彼に呼ばれると、自分が“砂雪”ではなくて、ただの“さゆ”になれる気がする。


そう素直に話したら、彼は『さゆはさゆだよ』と言って笑った。




『やだ』




彼に呼ばれるのは好き。


だけど今は違う、いらない。


呼ばれたくない。




『さゆ…』


『やだっ!』




ギュッとすっかり冷え切ってしまった両手で拳を握る。


何で?何で?何で?




『東京に行く、なんて……嘘、だよね……?』




また私のことからかってるだけだよね?


だって、ゆーくん言ったよ?


“ずっと一緒だよ”って。


ゆーくんが東京?


私を置いて?




『ゆーくん……』




そんな…そんなワケないよね?


“冗談だよ”って笑うんでしょ?


今なら許してあげるよ?


だから、ゆーくん。




『―――――……嘘じゃないよ』




そんな答えは、ほしくない。
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