恋愛電車。
初めて彼を見たときは、なんで気付かなかったのだろう?
こんなカッコいい人の存在に。

そう何度も何度も自分に訴えかけた。


あたしはその日、どうしても遅刻ぎりぎりで…
いつもとは違う車両に乗ったのだから。


まさか、そのおかげで彼に出会えるなんて思ってもいなかった。


耳にはイヤホンをつけている姿。
なんの音楽を聴いているのかな?なんて思う。


携帯をイジッて、誰かにメール中。
どんな事を話しているのかな?なんて…。


知りたいことは、他にも沢山ある。
でも…あたしには、そんな勇気ないし。


≪―――ぁ…まもなく、葉沢駅ー。葉沢駅前です≫


彼の降りる駅の名前。

外に向けていた体を出口の方に向けて、
降りる準備をしている。



今日も彼に会わせてくれて、
ありがとうございました、神様。


目の保養ありがとうございました、王子様。



…なんて、勝手に拝むあたしを他所に、
彼は扉に向かう。



…そのとき、彼の鞄から何かが落ちた。

パッと見は、生徒手帳っぽい。


なぁんだ。財布とかではないみたい。
よかった、よかっ………


……ん?
いやっ、全然よくないじゃん!生徒手帳!?


「あっ!ちょっ、待っ……」


気付いたら、手が動いていた。
慌てて、落ちた彼の生徒手帳を拾うと…


「…え?俺……?」


彼の制服の裾を掴んでいた。


彼の視線があたしに。
あたしは少し混乱してしまう。


お、落ち着け、自分っ…!!!


「ぁ、の……生徒手帳…落としまし、た」


「へ?あ~っ、ホントだ!俺ってば全然気付かなかった…」


イヤホンを外して、苦笑する彼。
きゃー、きゃーっ!!





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