恋愛電車。
やがて電車の速度が落ち、次の駅に到着した。


まさか憧れの“彼”と話せたなんて、未だに信じられない。
でも、もう話せないのかな…。


次会った時、話しかけれるかな?
話かけてもらえるかな??


「じゃ、俺、ここで乗り換えて戻るから」


「うん。生徒手帳、もう落とさないようにね」


まぁ、生徒手帳を落としてくれたおかげで、こうして話すことができたのだけど。


「大丈夫っ!もう落とさないよ。…あ、雛森サンの前以外ではね」


「…え?」


パチンとウインクを綺麗に決めて、軽やかに電車の出口へ向かう。


い、今…なんて?


「なんでもないよ~。また明日な!この電車、乗っててね」


太陽のような笑顔を残して、彼は電車を降りた。


また…会えるの?

また…今日みたいに話せるの?


あたしは、太陽に火照った真っ赤な顔を電車の外に向けた。
篠原くんの姿は、人ごみの中に消えている。


扉が開いた拍子に入ってきた朝の冷たい風が気持ちいい。


閉まる扉。
再び動き出す電車。


今日は本当にいい日。
憧れの彼と話すことができたなんて。


早く、明日の朝にならないのかな。
なんて一人で微笑いながら思う。



朝日はまだ、昇ったばかりなのに。



この時のあたしは、本当に幸せでいっぱいだった。
彼のことが知れた。それだけで嬉しい。


もっと彼のことが知れるのかな?
同じ学校のコみたいに。



蒼い空に、あたしは静かに微笑んだ。





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