毎日がカレー曜日2
 あっ。

 サヤは心臓を跳ね上げながら、直樹の方を振り返ると――彼は、自分の左手をじっと見ていた。

 左の手のひら辺りだけが、勝手に波打つように動いている。

「捕獲完了」

 パチン。

 孝輔は、自分の持つ端末を閉じた。

 仕事終わり、という合図だ。

「え? え?」

 サヤは、まったく分からない。

 囮から手袋に飛び移ったグレムリンが、どうして大人しくあの中にとどまっているのか。

 しかも、自分の端末を抱えたまま、彼は兄の方へ向かって歩くのだ。

「をい」

 ぐにゃぐにゃ動く手袋の手を、直樹は弟の方へと突き出した。

「その手袋が電化製品だってことを、忘れてたのは自分だろ」

 兄弟喧嘩が勃発しそうな二人の元へ、サヤもあわてて近づく。

 その孝輔の唇が。

「それに」

 小さく小さくひそめた声を放った。

 近づいていなければ、きっと聞こえなかっただろう。

「それに…いいのか、依頼主に捕獲したって報告してこなくて」

 小さく小さく。

 兄の立場を引き立てる言葉。

 直後。

 直樹の胸は、ぐんと反り返った。

 もにょもにょと動く手袋をしたまま、ゴーストバスター・ナオキの顔で依頼主の方へと歩いていくのだ。

「無事捕獲成功です、この通り」

 うごめく手袋に、どよめく関係者。

 鼻高々の、直樹。

 もはや、孝輔は後ろの騒ぎには興味がなさそうに、囮端末を片付け始めている。

「あ、あの…」

 置いてけぼりのサヤは、やはり小さな声で彼に呼びかけた。

「ん?」

 片付けの手が止まる。

「あの…さっきのは…一体」

 手袋から出られないグレムリンの、からくりが分からないのだ。

 ああ、と。

 思い出したように、孝輔はにやっとする。、

「あのバカが、手袋を突き出すパフォーマンスをするのは分かってたから」

 斜め後ろの直樹を見やるような仕草をみせた後。

「手袋に、トラップ仕込んだ。S値が離れそうになったら、自動でE値を思い切り落としてやるってヤツ」

 E値。

 サヤが初めて参加した仕事で、発見された感情の強さの値だ。
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