狼の話
死ぬことは簡単だ。何も食べなければ死ねる。

特別に何も必要ない。

なのに、空いた腹が泣いて、体が死にたくないと訴えている。

頭では死を願い、心の中も既に、荒れ過ぎて穴だらけだ。

悲しみも喜びもきちんと感じ取る事が出来ない。
この街に捨てられてしまった時にどこかに落としてしまったのか、それとも、人間の尊厳を失った野良犬に近い生活を送るうちに心が削られていったのかもしれない。

こんなで生きていてどうしょうというんだろう?
何でこんなに苦しいんだろう?

いつもの自問自答をする。毎回答えは出ない。

頭が痛くなるだけだ。

焦点の合わない目でぼんやり大通りのを見つめて観察すると、幸せそうな人間が見える。

尚更、自分の姿の惨めさが浮いて見える。

憎い。
と思った。

自分が失ったもの、手に入れることが出来ないものを、彼らは自慢して見せ付けているんだ。

自分以外の人間が消えてしまえばいいのに。そうすれば、こんな、苦しいなんて事も無いだろうに…

今度こそ死のう。

決意して、うつむく。膝を抱えて体に抱き寄せた。
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