il tablo d'estate
夏の扉
電車を神谷町で降りて、目の前にあったセブンイレブンに入った。
コピー兼FAX機は、入り口から奥まったところにあった。
冷房が強すぎるほど効いている。
今日も気温は朝からぐんぐんと上がって、目だった大きな雲もない空からの日差しも強い。
タオル地のハンカチで汗を拭いながら、わたしは鞄から「通知表」を取り出した。
分厚い紙の、二つ折りのそれを開き、もう一度ざっと目を通した。
何て言うかな。
何てことないよな。
コピー機のカバーを開き、今学期の成績その他が記入されている面を下にして、カバーを閉じる。
あ、と思い、わたしはそれをそのままにしてレジに向かった。
「すみません。」
財布から千円札を出し、両替を頼む。
店の中には他に誰も客がいなかった。快く、レジにいたおじさんが紙幣とコインを交換してくれた。
わたしはコインを右手に握りながら、もう一つ聞いた。
「あの、このFAXって、国際通話って言うか、海外まで送信できますよね?」
おじさんは、たぶん出来ると思うけど、と言って、店の奥にいた誰かに声をかけつつ、レジから出てきた。
番号は分かりますか?と聞いてくるので、わたしは「はい。」と答えた。
「普通に、国際通話の番号とカントリーコード、国番号でいけますかね?」
うーん、と液晶の画面や横の説明をあちこち見ながら、おじさんは、たぶんねえ・・と繰り返した。
とりあえずいつも使っている番号を打ち込んで緑色の送信ボタンを押してみる。
ピーッと正常終了の音がした。
たぶん、大丈夫だと思うけどねえ・・・おじさんは、何度目かの「たぶん」を繰り返した。
わたしも笑って、たぶん、と言った。
あやうくFAX機に挟んだ成績表を忘れていた。
お店を出て歩き出したところで、お嬢さん、と声がして振り返ると、おじさんがわたしの成績表を見て追いかけてくる。
すみません、と受け取った。
中身がどう、というわけでもないが、さすがに恥ずかしい。
あと、これ、とレシートをくれた。
「暑いとだめですねえ。」
そう言うと、
「学生が何言ってるんだよ。」
とおじさんも笑った。

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