il tablo d'estate
汗で背中に張り付くシャツを引き剥がしながら、大きく右にカーブした坂を上りきった。
左手にはロシア大使館。
警備の前をふうふう言いながら通り過ぎ、ようやく飯倉の交差点にたどり着いた。
「このへんのはずだけど。」
鞄から雑誌を取り出し、交差点、方向なんかを確認する。
そのまま頭上に目をやると、今日のお目当ての看板をようやく見つけた。
外付けの錆びた階段を上り、2階に上がると、そこがレストランの入り口だ。
ガラスに金色で書かれた店名 -La casa verde-を確認し、ドアを押し開けて中に入っていった。


午後2時を回る頃、支払いをしてレストランを出た。
ランチは記事の評価通り、おいしかった。
澄んだチキンスープのジュレがかかった冷たいパスタ、わたしだったらどう作ろう?ありきたりなバジルじゃなくて、他のハーブの香りであうものは?
先ほどは炎天下を登った坂道、今度は太陽がビルに遮られて、そして下りだ。
風がうなじを乾かすのを感じながら、大股でぐんぐんと降りていく。
交差点で信号を待っていると、携帯が鞄の中で鳴った。
両親かしら?と取り出した画面には、「真田」という名前が出ていた。
「もしもし。」
ああ、もしもし。
向こうで響く声はどんよりとしていて、今日の空にはそぐわない。
「真田さん?あれっ、仕事中じゃないの?」
青信号に変わった。わたしは話しながら、また大股で歩き出す。
「仕事中だよ。外を歩いている。」
「同じね、わたしも。」
「何をしているんだ?」
「お昼ごはん、食べに来ていたの。今、帰り。」
「今日はお前だって学校じゃないの?」
「終業式だったのよ。」
「明日から夏休みか。」
「そうよ、いいでしょう?」
「いいよな、本当に・・・・・あのな、俺さ、さっき、離婚が成立しました。」
思わず足が止まった。
でもそれは一瞬で、わたしはまたすぐ、同じペースで歩き出した。
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