il tablo d'estate
「ああ、そうなんだ。」
「そうなんだよ。」
「なんて言ったらいいんだろう?」
さあね、と真田は笑った。
「ええと、会ったの?あの後、奥さんと。」
「いいや。全部これまで弁護士を通しているよ。子供には・・・まあ面会とか、これからだって会える機会はゼロじゃないとは思うが。」
「うん、そうか。まあ、よく分からないけど・・・」
「潮時だね、もうこういう風にしかならないさ。」
うん、としかわたしはもう言えない。
わたしと知り合うもっとずっと前かららしいが、会社の若い女の子と不倫をして、結局奥さんが子供を連れて出て行ってしまったんだそうだ。
そういう事情がある以上、わたしの心の中に、彼に対する同情の余地はこれっぽっちもなかった。
そういう人なのだ。
わたしと知り合ったきっかけだって、ナンパされたようなものだ。(それは去年の夏のことだ。)
わたしはチリほどもそんなつもりなかったし、その時からこれまでの間に男女間のなにものもない。
わたしの「立場」も真田との関係性も、結局去年の夏から何にも変わってない。
「ところで親御さんは帰ってくるのかい、今年は。」
あまりにわたしの返答が色を無くしてしまったので、さすがに真田は気を取り直すように話題を変えた。
「さあね・・・分からないな。何にもそういうことは言ってこない。とりあえずさっき、成績表はFAXしたけどね。」
「成績表?」
「今日、終了式だったのよ。さっき言ったじゃない。」
「そうだったな。ということは明日から夏休みか。いいよな高校生。」
そうよ、とわたしは少し誇らしかった。靴の裏がじりじりと砂を踏む。
「でも、今年最後ですけどね。」
そう、今年が最後だ。




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