il tablo d'estate
来年の夏はどういう「立場」でいるのか、さっぱり分からない。
「なあ、あずる。」
「うん。」
「今日、飯でも食いに行かないか。」
「言うと思ったわ。」
悪びれず(見えないけど、きっとそうだろう。)、真田は笑った。
息をつく。だいぶ汗をかいている。空は上に上にと抜けていて、冬のあのガラスのような青じゃない。
もう東京タワーを追い越してしまって、豊かな緑の辺りから時々不意に訪れる涼しい風にわたしは目を細める。
「一緒に食べてもいいわよ。」
「どこへ行く?お前、どうせまた、行きたいところがあるんだろう?」
なんだか、わたしがせがんだような言い草だ。
「食べたいもの?あるわよ。じゃあ、任せてくれる?」
「いいよ、もちろん。」
わたしは午後7時という時間を告げた。
そして広尾駅近辺に来たら、連絡してくれるように言った。
「店の名前は?」
「・・・・うーん、ちょっと名前は後で思い出す。とりあえず広尾に来ればいいから。」
そうか、分かった、と真田は言い、最初の調子からはだいぶ元気が出たようで、「それじゃあ夜にな。」と言い、電話は切れた。
馬鹿め、とわたしは切れた携帯電話に向かって悪態をついた。
ああいう、奇妙に明るいところ、すぐに元気を取り戻してしまうところが嫌いなのだ。
その程度のことでしょう、と思ってしまう。
離婚することになったのだって、彼自身のそういうチャラチャラと明るい方向を勘違いしたポジティブシンキングの成れの果てだと思う。
でも。
左手首に薄く、白っぽく残る、この日焼け後を見るたびに、結局は切り捨てきれないんだろう自分を改めて思う。






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