il tablo d'estate
「でも、彼氏じゃないんだろう。」
「うん、友達。」
「じゃ、いいじゃないか。そいつはひどい人なのかい?」
「ううん、そんなことない。」
でもさ、とわたしは壁際にあるワイン用の冷蔵庫を開いてじっと見つめた。
「会わせてみたいというか、うん、ひょっとしたらさ、叔父さんと気が合うタイプじゃないかなーと思って。」
春樹叔父はテーブルの上の新聞をたたみながら、穏やかな変わらない調子でうなづいた。
「いいよ。あずるがそんな言うなら会ってみようか。明日は土曜日で、私も講義はないからね。」
そうして立ち上がって聞いた。
「で、何を作るんだい?」





自転車を飛ばせば、広尾駅の向こうにあるナショナル麻布スーパーマーケットまでは10分もかからない。
風が止まって、少し空気が蒸している。
店の前に駐輪し、小走りに店内に入ると、冷房で一気に汗ばんだからだが冷やされた。わたしはカートを押し、まずはトマトとレモンを物色する。
目の醒めるくらい、色鮮やかなものを2,3見繕って籠に入れ、次にかわいらしい白菜の赤ちゃんようなアンディーブを探した。 それからバターナッツ。
精肉のコーナーに行こうとしたときに、目の端にソラマメの淡いグリーンが掠めた。
その時に、ふいにバターナッツの鮮やかな山吹色のピューレの様子と、そのソラマメのコントラストが頭の中で生まれた。
わたしはソラマメのパックの山に軽くうなずいて、二つほどをカートに取った。
肉は今日は、牛肉だ。
「傷心」の友達は、まあ理由はともかくとして、そのエネルギーがすっかり費やされてしまっている。血の滴るような分厚い牛肉をかじることは、少しでも彼のその背中を押すだろう。
卵はまだ新鮮なものが、先日群馬の農家から通販で取り寄せたものがいくつか残っているし、バジルやタイムはすくすくとベランダのプランターで根を張っている。最後に鮮魚のコーナーで、ピカピカと光るような山盛りに皿に盛られたいわしを手に入れた。
レジの近くでは、黒人の大柄な店員がグルグルと回るロースターの中の鶏を、客の希望通りの大きさにばっさばっさと捌いている。香ばしくてジューシーな焼きたての鶏肉の匂いがし、列に並ぶ客はちらちらとそちらを見ている。
今晩の予定がなければ、わたしも間違いなく1羽買ってしまうほどに、鼻をうごめかせる。




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