三度目のキスをしたらサヨナラ
“浮気”という言葉にも、ソウは沈黙したままだった。

「じゃあ、まず相手のことね。名前は──佐和子」

思い浮かぶのは、どんなに忘れようとしても脳裏から消えてくれることの無い、佐和子の勝ち誇った笑顔。

「佐和子は高校のときから蒼太が好きだったの。佐和子と私は同級生で、蒼太より1つ年下。蒼太が入っていた陸上部のマネージャーをしてたの」

「……佐和子さんとミナさんは友達?」

「ううん」

私は、静かに目を閉じた。

「佐和子は美人だったし、うちの学年じゃちょっとした有名人だったから、私は知ってたんだけどね」

一方、佐和子が私のことを知ったのは、佐和子が蒼太に告白して、私という恋人の存在を告げられた時だ。

──だけど佐和子はあきらめなかった。

ことあるごとに蒼太に猛アプローチをかけ続け、そのたびに蒼太は毅然とした態度で佐和子を拒んでくれたけれど、それでも佐和子の気持ちは変わらなくて。

「私、今でも不思議なの。どうして佐和子みたいなかわいい子が、あんなに蒼太に執着するのか」

蒼太は背も高いし、多少濃い目で好みは別れるかも知れないけれど整った顔立ちをしている方だと思う。

だから一見、佐和子が惹かれるのも分かる気がした。

だけど、生真面目で女の子に気の利いた言葉のひとつも言えない無骨な性格は、洗練されたイメージの佐和子とは正反対で。

2人は似合わない気がした。

私は、そのうち佐和子はもっと素敵な男の人を選んで蒼太から去っていくだろうと思っていた。

……それなのに。

「世の中には男の人がいっぱいいるっていうのに、どうして蒼太じゃないといけないんだろうね」
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