三度目のキスをしたらサヨナラ
それは今から半年前の、夏。

一度目は陸上部の打ち上げ後のことだったらしい。
お酒に酔った勢いで……なんて、よくある話だ。

だけど一度そうなってしまうと、そこからはもう佐和子のペース。

二度目は、佐和子の押しに負けたという。
泣きながら私にバラすと脅されて、蒼太は佐和子を受け入れた。

こうして2人が関係を続けていた半年間、私は何も気付かなかった。

「私って、なんておめでたい女なんだろうね」

「……ソータさんが必死に隠してたんなら、仕方ないよ」

私は苦笑しながら大きく首を横に振った。

「今思えば、蒼太の態度がおかしいって気が付くチャンスは何度もあったの」

蒼太も苦しかったんだろう。

時折、考え事をして人の話を聞いていなかったり、携帯の電源を切っていたり。
真面目な顔をして何かを言いかけて、「やっぱりいい」とやめる事だってあった。

なのに──

『ムカつくほど幸せボケしてるからよ』
っていう佐和子の言葉が脳裏をよぎる。


「だったら、2人のことはいつ、どうして知ったの?」

「簡単よ。佐和子に直接聞かされたの。『蒼太と別れてくれ』って」

それは、今年の年明けのことだった。

「……ソータさんは?」

「その場にいたよ。修羅場ってやつ」

私は黙って目を閉じた。

「その時、蒼太が選んだのは、私じゃなくて佐和子だったのよ」

──あのとき、蒼太は私に言った。

佐和子の隣に立って、佐和子を見つめながら、
『こいつには俺がいないと駄目なんだ』

と──。

2人が並んで立つ姿を目の前にして、
私は初めて蒼太を失うという事実を知らされることになった。

そして、それは、悲しみと言うよりも恐怖だった。
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