三度目のキスをしたらサヨナラ
風が、冷たかった。

数メートル歩いたところで、背後からソウの声が聞こえてくる。

「ミナさん、本当に大丈夫?」

私は立ち止まって振り返ると、心配そうにこちらを見ているソウに笑顔で言った。

「1人で大丈夫よ」

そして、再びソウに背中を向けた。


私が歩き始めると携帯の着信音が止み、かわりにソウの声が聞こえてきた。

「もしもし……待たせてごめん……」

あぁ……。

電話に出たその一言で、“ソウ”が“海”に戻ったんだと分かる。

「ん、と……明日受験で、明後日にはあっちに帰る……」

「……いや、今からは無理。……夜ならいいけど」

出来るだけ聞かないようにしようと思っても聞こえてしまうその声は──

私がいつも聞いているより低音で、
少し大人びた口調。
なじみのないイントネーション、
聞き慣れない語尾。

──方言混じりのその声で、ソウは彼女を「おまえ」と呼んだ。

それは誰にでも分かる、“特別な相手”との会話だった。
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