三度目のキスをしたらサヨナラ
車に乗り込むと、ソウはすぐにエンジンをかけて暖房のスイッチを入れた。

エアコンの吹き出し口から勢いよく出た冷風は次第に温風に変わり、冷え切っていた私の体は温かさを取り戻していく。

「彼女、何だって?」

エアコンの風に両手の指をかざしながら、私はソウに尋ねた。

「うん。俺が貸してるCDがまだ手元にあるから、それを返しに来るって」

「ふーん……」

普通、それだけの理由でわざわざ自分からフった男に会いに行く?
しかもホテルの部屋まで。

そう思ったけれど、敢えて口には出さなかった。

だってそんなことくらい、ソウにだって分かっているはずだから。


──それから、私たちの間には長い沈黙。


あの電話をきっかけに、ソウの様子は明らかにおかしくて。
今も何も話さず、ただ黙ってハンドルを握っている。

そんな車内には、陽気なBGMだけが鳴り響いていた。

ほんの数時間前にはあんなに楽しげに聴こえたその音楽は、今ではただ耳障りなだけだ。

あの時のように、ソウが楽しげに指でリズムをとったり鼻歌を歌うこともない。


私は、漁港で食べそびれたパンを頬張ると、シートに深くその体を預けた。

「なんだか疲れちゃった。少し寝てもいい?」

「いいよ、ゆっくり休んで。着いたら起こしてあげる」

ソウはチラッとこちらを見てそう言った。

「うん……おやすみ」
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