三度目のキスをしたらサヨナラ
「あーあ、まだ言うつもりはなかったのになぁ……」

急展開についていけないのは私だけで、
ソウは照れもせず、相変わらずの調子ではぁっとため息をついた。

「だったら……どうして黙って帰っちゃったの?」

「だって、最後の日のことを思い出してよ。あの状況だよ? あの時のミナさん、とりつく島もなくて、何を言っても無駄だと思ったんだ」

そうだ……。

あの日、私は自分のことで精一杯で、
ソウの口から『ミナちゃん』のことを聞かされるのが怖くて、

ソウに話す機会すら与えなかった……。


「俺は2浪中で進路も定まっていなくて、自分に自信が持てなかったしね。その上、彼女──リョーコ──と会っていたのも本当で。……そんな奴があの状況で何を言っても、説得力がないだろ?」

私は何も返事を返せなかった。

しばらく私の返事を待っていたソウは、一呼吸置いて更に続ける。

「リョーコに電話で『やり直したい』って言われたとき、全く気持ちが動かなかったって言うと嘘になるんだ」

その言葉に、少しだけ胸が痛んだ。

「彼女のこと好きだったのは確かなんだ。大好きだったから、当分この恋は忘れられないだろうなって思ってて。……だからミナさんへの気持ちには、俺自身がすごく驚いてて」

「……」

「……でもね。漁港でリョーコと電話したときに思ったんだ。俺が今気になっているのは、リョーコじゃなくてミナさんなんだって。リョーコにあんな無愛想な話し方したの、あの時が初めてだよ」

私の頬を、ずっとずっと我慢していた涙が伝った。

「だから、漁港からの帰りなんてもう頭の中ぐちゃぐちゃだったし、その晩リョーコと会っても、ずっとミナさんの顔が浮かんで」

「私の……どんな顔?」

「泣いてる顔……じゃなくて、怒ってる顔。『ソウなんてもう知らない!』ってそっぽ向いてる横顔」

「ひどい……!」

「でも、当たってるでしょ?」

ソウが笑った。
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