三度目のキスをしたらサヨナラ
デッキへ向かうために進行方向に逆らって通路に立つと、さっきとは逆で、他の乗客と完全に向かい合う格好になる。

まず、夕刊の隙間からこちらを覗くサラリーマンと目があった。

そしてまた1人──。

やはり車内には、出張帰りといった様子のサラリーマンが多かった。

そんなサラリーマンには、こんな時間に女1人で新幹線に乗り込み、携帯を握り締めて必死の形相でデッキへ向かう私の姿はどう見えているんだろう?

それを考えるとなんだか恥ずかしくて、私は目を伏せて早足でデッキへと急いだ。


歩いていると、手の中で再び携帯が音を立てる。

──ソウだ!

今度はそれを聞き逃さなかった私は、デッキに出るまでのほんの数秒も待ちきれなくて、歩きながら通話ボタンを押した。


「もしもし、ソウ!?」


自動ドアを抜けながら、携帯を耳に当てて叫ぶ。

デッキがうるさいせいなのか、ソウの声はよく聞き取れなくて、私は片方の耳を手で塞いだ。

喋る声も思わず大きくなる。

「ミナさん? ……なんだか音が悪いけど……外……?」

電話の向こうから、途切れ途切れのソウの声が聞こえてきた。

「うん……あのね」

「え? 何? ごめん……よく聞こえないんだけど」

「だからねっ!! 私は今……」

そして、私がこの状況を伝えようと次の言葉を口に出す直前、ソウの声が私の耳に届いた。



「ミナさんごめん! 俺、明日まで待ちきれなくて、今から新幹線に乗るんだ」



そして、

そんな声とほぼ同時に電話口の奥から聞こえてきたのは、

大きな大きなベルの音と、

新幹線の到着を告げるアナウンスの声だった。


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