三度目のキスをしたらサヨナラ
えぇーっというソウの驚く声がスピーカーから聞こえてくる。

「それは嬉しいけど……ミナさん、一晩待てなかったの?」

「そんなこと、ソウにだけは言われたくないんだけど」

全く、どの口がそんなことを言うのよ。


「電話も、俺がかけてるんだから待っててくれればいいのに。……って、ちょっと待って! このままだと、俺たちすれ違っちゃうってこと!?」

相変わらず暢気なソウに、少しだけイラッとする。

「あのね、ソウ。K駅で降りて!」

──間に合ってよかった。

私は緩みそうな気持ちをぎゅっと引き締めて、もう一度繰り返した。

「いい? K駅よ。そこで降りないと会えないんだからね!」

「うん……K駅だね?」

「そうよ」

よかった……ソウに伝わった……。

携帯を握り締めている手が、小刻みに震えた。

「分かった、絶対降りるよ。ミナさんも寝過ごさないようにね」

ソウのバカ……。
こんな嬉しいときに居眠りなんて、できるわけないじゃない。

だけどその言葉はとてもソウらしくて、腹を立てるのもバカらしくて。
私は笑いながら返事をした。

「うん、ありがとう。ソウもね」


そして、そこで電波の悪くなった電話は切れてしまった。


通話の終わった携帯電話を折りたたむと、体中の力が一気に抜けていく。

私は、その場崩れるように座り込んだ。

もう、さっき座っていた座席まで戻る気力も体力も残っていなかった。


──あと1時間でソウに会える。


目の前の時刻表を眺め、再度その時間に間違いがないことを確認すると、私は嬉しさのあまりさっきからずっと震え続けている両手で顔を覆った。

そして、そのまま“その時”が来るのを静かに待った。
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