三度目のキスをしたらサヨナラ
私たちの頭上では、何度も何度も、東京行きの最終列車を迎えるアナウンスが繰り返され、ホームは次第に慌ただしくなっていった。

「それと、もう《ゲーム》はおしまいだね」

そんなアナウンスやベルの音でソウの声がかき消されそうで、私はぐっとソウに顔を近づけた。

私たちに残された時間はわずかしかなくて、
そんな今、私はソウの言葉を一言も聞き逃したくなかった。

「だって俺たちはもう、失恋の傷を癒す必要がなくなったんだから。目的のなくなった《ゲーム》は、これでおしまい」

「じゃあ……《ゲーム》は引き分け……?」

「そうだよ。それと、引き分けじゃなくて、俺たちはどちらも負けなかった──勝った、っていうことなんだよ」

その言葉に、ずっと我慢していた涙が溢れる。

「……だから俺たち2人ともに、幸せな未来が待っているんだ。そのことを忘れないでね」

「うん……ありがとう、ソウ」

「きっと一緒に幸せになれるよ」

ソウは私の頬を伝う涙を、優しく手で拭ってくれた。



「それと! 今度会うときは『はじめまして』って、自己紹介から始めよう」

「……え?」

「そのあとはもう、俺のことを『ソウ』なんて呼ばないでね」

「え?」

「俺、ずっと悔しかったんだよ。ソウって呼ばれる度に、ソータさんの代わりにされてるみたいで。だからいつか自分の名前を呼んで欲しくて……」

──思い出すのは三度目のキス。

だったらあれは、計算ではなくて、ソウの本心だったって言うこと?


「全く、あれだけは俺の誤算だったよ。自分の名前を呼んでもらえないことがこんなに辛いとは思わなかった」

ソウは苦笑いを浮かべた。

「ソウって呼んだら、罰ゲームね。デコピン1回」

そう言って、人差し指で私のおでこを軽く突く。

「だから、その時、本当のミナさんのことも教えてね」

「ホントの私?」

「そう。……そして俺たち、もう一度恋をするんだ」
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