三度目のキスをしたらサヨナラ
だけど、そんな幸せな時間は束の間で。
東京行きの新幹線は、大きなベルの音とともに無情にも定刻通りホームに入って来た。

「ソウ……」

忙しくてやかましいアナウンスとは対照的に、ゆっくりと、静かに停止した新幹線の扉が開くと、中から次々と乗客が降りてくる。

「さあ、ミナさんも早く行って!」

「だって……」

どうしてもその場から動き出せない私を、ソウは優しく抱き締めた。

「もう……そんな顔しないでよ。《ゲーム》の最後は、笑ってサヨナラなんだから」

続いて、ホームで列を作って待っていた乗客が列車に乗り込み始める。

「ソウ……お願いだから、大学に合格して、迎えに来てね」

「うん」

「あまり遅かったら……私から追いかけていくからね」

その言葉に、ソウが笑った。

「信じてないなぁ。俺、絶対合格するよ。だから、ね? 笑って」

ソウの顔を見上げると、その目にはうっすらと涙が滲んでいた。

「自分だって泣きそうなくせに!」

そう言って、私は笑った。

とびきりの笑顔で。

……ううん。
本当は全然上手に笑えてなんていなかった。

震える頬を無理に引き上げ、口角を引き、めいいっぱい唇を開いて。
だけど頬は涙で濡れていて。

それは、決して綺麗ではないけれど、私に出来る精一杯の笑顔だった。

あっという間に人の減ったホームに、乗車を促すアナウンスが響く。

私はゆっくりとソウから離れると、背中を向けて、新幹線へ足を踏み入れた。


「またね、ソウ」

「うん、またね、ミナさん」


そんな言葉を交わしたところで、あっさりと扉は閉まる。

扉の向こうで、ソウが笑って手を振っていた。


──まだ、駄目だ。もう少し。

ソウが私の視界から完全に消えてしまうまで、涙を我慢しないと──。


笑顔を返しながら、私は必死に嗚咽をこらえ続けた。



そして、私を乗せた新幹線は、東京へ向けて出発した。


< 203 / 226 >

この作品をシェア

pagetop