三度目のキスをしたらサヨナラ
駐車場のすぐそはには、箱型の大きな倉庫があった。

「ここは市場なんだ」

その建物の前まで歩きながら、ソウは楽しそうに話してくれる。

「市場っていってもそんなに大きくないし、集まってくるのはほとんど地元の人だけどね。でも、朝早くここへ来れば新鮮な魚がいっぱい手に入るよ」

「……ソウはよく来るの?」

「そうでもないよ。5回目くらいかな」

こっちの人間でもないのに5回も通えば、十分多いと思うんだけど。


大きな上下式のシャッターが全開になった市場を覗くと、そこは何もないだだっぴろい空間だった。

潮と魚のにおいが残る庫内の床は濡れていて、
私は、ソウの「長靴がいる」という言葉を思い出して1人で納得した。

薄暗い建物の中を目を凝らして見ると、そこには2つの人影。

鮮魚店のマークが入った発泡スチロールのクーラーボックスに腰掛けてタバコを吸う男性と、ホースで水を撒きながらデッキブラシでコンクリートの床を磨く女性がいた。

年はともに50歳前後といったところだろうか?
仲良さそうに話をする2人の姿は、夫婦のように見えた。

「年をとってもあんなふうに仲良くいられたらいいよね」

ソウはそんな夫婦の姿をじっと見つめて言った。

「ここには、彼女ともよく来たの?」

「ううん。あいつはこういうとこは苦手みたいで」

「……なのに私は強制連行って、どういうこと?」

ソウは何も言わずにただ笑っていた。
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