三度目のキスをしたらサヨナラ
「ソウ!」

「いいから、しっかり掴まってて」

ソウがまず先にドラム缶に上り、上から手を引いて私を引き上げてくれる。

それを何度か繰り返して防波堤の上に上ったときには、私はすっかり息を切らしていた。


防波堤の上段は、幅2メートル近くあった。

だけど、見下ろすとはるか下方に波打つ海面が見えて、思わず足がすくむ。

まるで綱渡りをしている気分だ……。

私は、数歩歩いたところで軽い眩暈を覚えて、

「ごめん、もう無理!」

ソウの手を振り解いてその場にしゃがみこんでしまった。

じっと座っているだけでも海からの風にあおられてバランスを崩しそうで、ソウのズボンの裾を慌てて掴む。

……なんだか今日の私は、ソウを掴んでばかりだ。


「大丈夫だよ、ミナさんのことは俺がちゃんと守ってるから」

その言葉は一体どういう意味よ、って突っ込みたくなるようなことを平然と言いながら、
ソウは海に向かって腰を下ろした。

「ほら、怖くないよ。それに……前見て」


ソウの言葉に恐る恐る顔を上げると、そこには透けるように青い海が広がっていた。

沖には数隻の漁船が静かな波に揺られて浮かび、奥に見える小さな島々はその緑色や輪郭までもがくっきりと見えた。

そして、辺り一面には冷たくて澄み切った空気が広がっている──。


思わず溜息がこぼれた。

「綺麗……」

「でしょ? 沖縄の海には負けるかもしれないけどね」

ソウに手をとられながら、私はゆっくりとソウの隣に移動した。

「ここが俺のお気に入りの場所。教えたのはミナさんだけだよ」

ソウは嬉しそうにそう言うと、空中に投げ出した足をわざとブラブラさせて見せた。

足元には、テトラポッドが、乱雑ながらその突起同士が噛み合わさるように積み重ねられていた。

テトラポッドに打ち付けられた波は白い泡を作り、次々とその隙間へ吸い込まれるように消えていく。

目を閉じると、遠くで聞こえる漁船のエンジン音が、今は心地よく鳴り響いていた。
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