牙龍 私を助けた不良 上
『なぁ、凜華・・・』
『・・・・・』
『無視し・・んなー・・・』
黙ったまんまの私に、ひなたがゆっくりと話し掛けてくる。いつもの、元気な声じゃない。
やだやだ。
救急車の音が近い、乱闘する音が近い。ひなたの声が鮮明に聞こえる。
『・・・チビ』
『なっ!?』
突然、チビと言われて反射的に顔を上げる。視界に写ったのはひなたの綺麗な顔で──。
そっと近付いてきたひなたは、私の唇に自分のそれを重ねた。音もなく、ゆっくりと。
そして。
『────、凜華』
『え・・・?』
そう呟いたひなたの身体から力が抜けた。まるで、その姿は──。
『や・・、ひな・・?』
その時だった。
底知れない思いで心が埋め尽くされた私は、咆哮(ホウコウ)した。
『いやぁ────!!!!!』
それは、まるで慟哭(ドウコク)のような咆哮だった。