牙龍 私を助けた不良 上
呼んだは言いが凜華は目を覚まさず、ただ涙だけが泣き痕のついた頬を伝っていく。
──これが凜華の、本当の姿じゃないかと思った。
いつもツンツンしていて、弱味なんてなさそうに見えた。強い女だなと思っていた。
でも、本当はこうして泣いている。
苦しそうな声を出しながら魘(ウナ)され、ただ静かに涙を流している。
「凜華」
もう一度名前を呼ぶ。本当は弱くて、守りたいと思った女(ヒト)の名前を。
すると、凜華は瞼を震わせて瞳を開けた。それは涙に濡れた、弱々しい瞳だった。