牙龍 私を助けた不良 上
「怖い夢でも見たのか?」
低い声で、甘やかすように聞いてくる。ゆるゆると首を横に動かして、木藤を見上げ──後悔した。
離れたとは言え、まだいつもより近い──至近距離30センチ。
近くで見れば見るほど、木藤の顔立ちは綺麗で、青い瞳は余計に目を奪われて・・・。
何だか分からないけど、木藤が色っぽく見える。女を簡単にはオトせそうな妖艶さに言葉を失う。
「──凜華」
いきなり木藤の声に呼ばれて、全身が強張る。息を飲んで、
「な、なに・・・?」
精一杯声を振り絞ってそう言った。
「・・・・無理に、お前の過去を聞こうとは思わねぇ」
─────え?
「何を抱えててもいい。けど、無理すんな。一人で背負うのが無理なら言え」
──俺が一緒に背負ってやる。
甘く囁くように言われたその言葉。一滴の雫が泉に落ち、小さな波紋が広がるように私の心の奥底まで広がる。