牙龍 私を助けた不良 上
ポタッ───
ポタポタッ───
そう、あれは──。
春の天が泣いた夜だった。
月が垂れ籠める雲に隠れ
桜が雨に打たれて散る
そんな雨降る夜の桜並木
「……っ、……っう…………」
美しい緋色の髪の少女が
声にならない声をあげ
おぼつかない足取りで歩く
少女が歩いた道の上には
そこには桜に似た水滴
少女の身体から流れた鮮血
「………っ……ぁ…」
足が縺(モツ)れてしまい
少女は力なく倒れ込んだ
彼女を雨が打ち付ける
身体は微動だにしなかった
春の天が泣いた夜
『緋色の少女』は死んだ
春の天が泣いた夜
『孤独な少女』が生まれた