牙龍 私を助けた不良 上
「姫ちゃーん」
「ん?」
「コイツ、果てしなくうざいにゃ。つか、反省してない?」
「見逃してやったのにな。・・・やっぱり、警察に突き出せばよかったな」
「やっ、やめてくれ──それだけはっ!!!」
「・・・黙れ、クズ」
冷たく笑う姫蝶に、及川は震える。それを見て、狼姫が及川の無防備な手を踏みつけた。
ミシッと、いやな音がする。及川の絶叫が響く。姫蝶は肩に乗せているルナを、朱里に渡すと、言った。
「二度も、私の家族に手を出したこと──存分に後悔するといい」
「ぎゃぁぁああっ!!!!!」
ボキッと、音がした。狼姫が足を退かしたが、その手は動かない。どうやら、彼女が折ったらしい。
姫蝶は、形のいい唇をカーブさせて、艶やかな微笑みを及川に向けると、踵を返した。