牙龍 私を助けた不良 上
驚き過ぎて、身体が動かない。今まで少ししか聞こえなかった鼓動が、はっきりと聞こえる。
「ずっと、礼が言いたかった。──ありがとう、緋龍」
「え・・・?」
「あんたのお陰で、俺は大切なものができた。強くなれた」
刹那、私は、目が熱くなるような気がした。そんなことない、って言いたいのに。
私はそんなにすごい人間じゃない。弱虫で、泣き虫で、意気地無しなんだ。
それにっ──。
「・・・っ、・・」
小さな嗚咽が零れ、頬を雫が伝って手に落ちた。途端に、涙が止まらなくなって涙を拭おうとすると、
「泣きたいなら、泣けばいい」
ふわりと甘い、落ち着く香りに包まれて、涙がボロボロと落ちる。
「凜華」
「木、藤っ・・・」
どうして、こんなに優しい人を、忘れたりしたんだろうか。
木藤の腕に包まれたまま、私は、止まらない涙と共に、嗚咽を零した。