牙龍 私を助けた不良 上
side:凜華
「連絡を一切してないんだぞ」
「まぁ、落ち着け」
「・・・兄さん」
焦るしかない私に、兄さんは呆れたような溜め息を吐いて、鞄からなにやらゴソゴソと取り出した。
文字も絵もない無地で、真っ白い長方形の便箋を、静かにベッドサイドの机に置いた。
「後で中身を見とけ」
「え、」
「近いうちに、な。・・・さて、俺はそろそ『ピリリリッ』」
事は済ませたと言わんばかりに立ち上がった兄さんの言葉は、そんな音に遮られた。
それは、兄さんのケータイだったみたいで、すまんと言いながら、耳に当てて、
『何処に行ってやがんだっ!!帰ってきやが──』
ブッ、ツツ、ツー、ツー。
離れていた私に聞こえるのだから、木藤にも聞こえただろう。
病室に響くくらい大きな声が、兄さんのケータイから響いて、ブチッと切られた。
兄さんは、耳を押さえながら「またな、凜華」と言って、慌ただしく病室から出ていった。