牙龍 私を助けた不良 上
誰も、彼女が先ほどまで一緒にいた少女に会うことを、許していない訳ではない。
男は、そう思っている。
それに、唯一全てを記憶している彼女から、重荷になっているソレを取り出してやりたいとも。
五つ年下の少女が、どうしてソレを背負わなくてはならないのか、男は何も言えなかった。
俯きがちになりながら少女を見ていると、彼女は男を見て苦笑した。
「貴方がそんな顔をしては、何だか悪いことをした気になる」
「・・・すまない」
ライダースウェアに包まれた足を組み替えて、彼女は空を見上げた。
今日も空は、見慣れてきた灰色で。今にも白い結晶が落ちてきそうな、泣きそうな、そんな空で。
少女は、漆黒の双眸を大地に落として、目の前の男に呟くように言った。