牙龍 私を助けた不良 上



* * * * *


その夜は、空から雨が降り注いでいた。ビルの間も、小さな屋根のある店先も、雨で濡れていた。



「・・・また、泣いてるの?」



ビルとビルの間、薄暗い路地裏と同化するように佇んで、彼女は呟いた。


真っ黒いフードの下、どんな表情をしているかは分からないが、その声はどこか寂しげだった。


雨に濡れた姿は、愛護欲をそそられるほど弱々しい。


「どうしたらいいかな」


「──探したよ」



ふと、少女は声を掛けられた。──と同時に、少女に降り注いでいた雨が遮断された。ポタポタと、雨が傘に当たって跳ねる。



「風邪引くよ」


「瑠矢・・・」



傘の持ち主、瑠矢は望夢に傘を持たせて器用に抱き上げる。その身体は、いつもより冷たい。


それを悲しむように、瑠矢は彼女の額に自分の額をそっと合わせる。



< 374 / 476 >

この作品をシェア

pagetop