牙龍 私を助けた不良 上
* * * * *
その夜は、空から雨が降り注いでいた。ビルの間も、小さな屋根のある店先も、雨で濡れていた。
「・・・また、泣いてるの?」
ビルとビルの間、薄暗い路地裏と同化するように佇んで、彼女は呟いた。
真っ黒いフードの下、どんな表情をしているかは分からないが、その声はどこか寂しげだった。
雨に濡れた姿は、愛護欲をそそられるほど弱々しい。
「どうしたらいいかな」
「──探したよ」
ふと、少女は声を掛けられた。──と同時に、少女に降り注いでいた雨が遮断された。ポタポタと、雨が傘に当たって跳ねる。
「風邪引くよ」
「瑠矢・・・」
傘の持ち主、瑠矢は望夢に傘を持たせて器用に抱き上げる。その身体は、いつもより冷たい。
それを悲しむように、瑠矢は彼女の額に自分の額をそっと合わせる。