牙龍 私を助けた不良 上
考えが甘かった、と彼は思った。
机を挟んだ向かいのソファーに座っている彼女は──姫蝶は、淀みのない獰猛な猛獣のような鋭い瞳を、彼に向けていた。
「その答えは、先の問いに相当する価値があるか」
そんな彼女からの問い掛けに、彼の背を伝うのは戦慄きか、恐怖の震えか。
彼は、威圧されているわけではない。彼女が纏う、王者の貫禄というものが、彼の本能を刺激しているからだ。
先程までの、友好的な笑顔を浮かべていた面影は、まるで感じられない。幻だったのかと、思うくらい。
二人だけのこの空間を、彼はやけに痛く感じていた。
遡ること十数分前──・・・。