牙龍 私を助けた不良 上
大切な人が犠牲者だと言った歩夢の瞳を見て、桃華は何も言えなかった。否、言ってはならないと思ったのだ。
信頼と悲しみの光を称えた漆黒の瞳の奥に、押し込むように隠された──その真意。
黙り込んだ少女二人に対して、喋ったのは、
「なら、」
「・・・・・」
「何で、止めない」
不安気な桃華を、その腕に抱いた狼王の長・戒希だった。
当たり前のような問い掛けに、歩夢はゆるゆると視線を病室の窓へと向ける。
「止められない」
「・・・止められない?」
「あの子が選んだ道だから。私が止めても、何も変わらないから」
どんな関係であろうと人の道行きは、他人が犯してよいものではない。
特に『彼女』は、誰よりもその痛みに敏感だった。だから、止められないのだ。