牙龍 私を助けた不良 上
かと、思えば。
再びノックなしに扉がスライドして、少女がひょこっと顔を覗かせた。
「言い忘れてたんだけどさー」
「な、何を?」
「姫蝶が、『緋色の行動に注意しろ』だってさ」
「緋色・・・。アイツのことか?」
戒希の疑問に、知らなーい、と少女は笑いながら答えた。
本当に知らないのかと、再び問い掛けるよりも早く、少女は続けていった。
「伝言は伝えたから。そんじゃねー」
邪魔者は退散しますねー、などとも言って去っていった。なんともわからない人間である。
『緋色の行動に注意しろ』
不穏さを隠さない言葉に、戒希と桃華は繋がれた互いの手に力を込めた。
降り注ぐ雨の音が、何故か一際大きく聞こえた。