牙龍 私を助けた不良 上



姫蝶が何を言いたいのか分からない。


俺は凜華に助けられた。だからこそ、凜華を助けたいと思った。守りたいと思った。


待つって言っておきながら、こうして姫蝶の元へ来たのも、凜華に笑っていてほしいからだった。


全て、凜華のためにやったことだ。俺のためでも、他の人間のためじゃない。


それが、理由でしかない。覚悟が、何を指しているのか分からない。



「私が聞きたい覚悟とは、お前を突き動かしたモノ──理由が生んだ、お前の思いだ」



考えはお見通しらしい。彼女は、ひとつひとつをゆっくりと言葉にして教えてくれた。


──誰かを救いたい。


それには、何らかの理由が多種多様に存在している。恩人だから、友人や家族だから、恋人だからとか。


だが、それは理由でしかない。それだけが、ぽんと在っても『誰かを救いたい』で止まってしまう。



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