牙龍 私を助けた不良 上
苛立ったように朱里は、電話に出た。姫蝶は静かに、その成り行きを見守っている。
「何?今急いでるんだけど?」
『分かってる!!凜華が、いなくなった』
「・・・緊急事態どころか、非常事態じゃないの」
『姫蝶に伝えて』
スピーカーモードにしていたからか、相手の声がくっきり聞こえてきた。
姫蝶は二人の通話が終わると同時に立ち上がった。そして、朱里に言った。
「──もうシャドウは動いてる筈だ。他は?」
「No.4も仲間と捜索中だって連絡が入った。すぐにでも、あたしも動くよ」
「なら狼姫には、見張りを頼んでおく」
「うん、分かった」
瞬く間に展開される話に、緊急事態なのだと言うことだけがはっきりと分かった。
あの飄々とした朱里が、こんなにもきびきびと動いている姿は、とても凛としていた。