牙龍 私を助けた不良 上
「ダメかな、舞」
『はいはい、分かったよ。やればいいんでしょ、望夢』
──折れたのは、電話の向こう側にいる少女の方だった。仕方ないと言いたげに、溜め息を吐いている。
望夢と呼ばれた少女は、天井を指していた指を下ろして、小さく息を吐いた。
「ありがと。報酬は、前に欲しがってたモノでいい?」
『んにゃ、今回はタダでいいや。珍しいあんたが見れたからね』
「・・・悪趣味」
『そりゃどうも』
明日の昼間までには届ける、という言葉を最後に電話は切れた。
ケータイを閉じて、サイドテーブルに置くと、望夢は再び星を宙に描き始める。
「・・・約束、ようやく果たせるよ」
呟いた声は、宙に溶けて消えた。