嘘カノ生活
「そんなに怒らなくたって…」
誰も居なくなったマンションの裏で1人文句を言ったけれど、それは本心ではなかった。
言葉が、嬉しかったから。
関谷が言ってくれたことが、すごく嬉しかったからだ。
そう思うと自然に口元が緩んでしまう。
あたしも帰ろうと歩き出した途端、さっき関谷が曲がった角からバタバタと走る音がした。
そして直ぐに関谷がその角から姿を現す。
「え、なに…?忘れ物?」
そう聞いたけれど、関谷は最初から手ぶらだったことを思い出した。
息を切らしたまま何も言わない関谷。
余程全速力で走ってきたんだろうか。
「あぶねーし、家まで送る!」
「あ…」
多分、さっきみたいにまた絡まれないように、という意味で。
その為に全速力で駆けてきてくれた関谷。
さっきまであんなに不機嫌だったのに?
そう思うと嬉しくて、可笑しくて、緩んでいたあたしの口元は更に緩んだ。