嘘カノ生活




挨拶を返すと、その女の人はもう1度会釈しながら笑った。

 

あたしは視線をポストに移し、"間宮"の文字を探す。

女の人よりも奥にあるポストはよく見え辛かったけれど、少し目を細めてなんとか見る事ができた。

上から順々に目を通していく。

頭の中で、"間宮、間宮、間宮…"と繰り返しながら。

 
   
けれど、どこを見てもその文字は見つからない。

唯一の救いは、ネームが貼っていないポストが1つあるだけだった。

そこが間宮さんの部屋だと思い、思い切って未だポストの中を見ている彼女に尋ねた。
 
 
 
「あの、ここって誰か住んでます?」



そのネームの入っていないポストを指差して言う。

ところが返ってきた返事は、あたしの期待をいとも簡単に裏切った。 
 
 

「いえ…良くわからないけど、確か空家だと思いますよ」

「あ、そうですか…」



そう聞いたあたしは落胆して、ポストを指していた指を下ろす。
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