嘘カノ生活
「理由があるなら聞くけど、なんであれあたしはとりあえず怒るから」
「ごめん…」
怒りを顔に出すときの夕菜は本当に怖くて、怒られているのはあたしではないのに何故か謝ってしまう。
はあ、とため息を吐いて視線を中庭に戻す。
するとそこに、いるはずのない人がいるのが見えた。
「あれ…」
「ん?」
歩くのを止めて、そこを凝視する。
夕菜が不思議そうにあたしと同じ場所を見るけれど、まだ事情を知らない夕菜は誰がいてもわかるわけがなくて。
「ちょっと、先に病室行ってて」
「は?」
「ごめんね!」
了解を得る前にあたしはその場を後にする。
見失わないようにと、視線は変えずに中庭へと入った。
すこし駆け足できたから、息を整えて近づく。
「沙織さん」
…どうみたって、あの綺麗な姿は沙織さんだった。