嘘カノ生活
あたしの声に反応して沙織さんがゆっくりこちらを振り向く。

相変わらずとても綺麗な顔立ちで。

大きな目を、もっと大きくさせてあたしを見る。

そして一瞬泣きそうな顔になった後、沙織さんは深くお辞儀をした。

あたしもそれにつられて同じくらい深くお辞儀を返した。
 
 
不思議と、怖いだとかそういう感情にはならなかった。

 
 
「…どうして、ここにいるんですか?」

「…すみません……」

 

あたしの言葉を責め言葉として受け取ったのか、沙織さんは再び泣きそうに謝る。

あたしは手を左右に振って、「違います、責めてるんじゃなくて」と言った。
 
 

「あたしなんかが、来たらいけないのは分かってるんですが…」

「お見舞い、ですか?」
 
 
 
あたしがそう聞くと、沙織さんは躊躇いながらも頷いた。
 
その顔は本当に今にも涙を見せそうな顔で。

あの日の、間宮さんを刺した日の彼女とは思えなかった。

それを見てあたしはどうする事もできなくなる。

 
 
 
「す、すみません、帰りますね…」

「あ…待ってください!」

 
 
どうしたら良いのか分からなかったけれど、口を開いたら呼び止めていた。

どうしたいのかなんてあたしにも分からなかったけれど。
 
 
 
「良かったら、お話、聞きたいです」



本当に口を開いたら、これしか出なかった。
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