嘘カノ生活
必死にあの日言われたもう1つの言葉も思いだす。

"壮がいなかったら、あたしは…"

…例に習えば、その続きを予測するのは簡単だった。


 
「あの時は、壮になんか幸せはあげないと決めていました」

「でも…」

「あの時までは」

「え…?」

 

いつもあたしにごめんしか言わなかった壮が。

あの時もう全部終りにしようと言ったから、もう終りにしようと思いました。


沙織さんは俯きながらも優しげな声でそう言った。

 
 
「だからあなたの質問の答えは、"今はもう憎んでいません"です」

 
そう言って、沙織さんは顔をあげ小さく笑った。

その後直ぐに弱気な顔に戻ると、あたしにもう一度深く頭を下げ立ち上がった。

 
 
「じゃ、じゃあそろそろ帰りますね」

「え…間宮さんに会っていかないんですか?」

「はい。やっぱり、今更何を言っても許される事ではないですし」

「そうかもしれないですけど、でも…」

 

言ったところで事実は消えないにしろ、

それでも顔をあわせれば何か変わるかもしれない。

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