嘘カノ生活
それを言ったけれど、沙織さんは首を振った。

 

「1つお願いして良いですか?」

「お願い?」

「もう"恨んでないよ、本当にごめんなさい"と、壮に伝えてください」

「……」

 
あたしが言ったところで、何も変わらないのに。

そのお願いに頷けずに居ると、

沙織さんは困ったように笑って、最後に深くお辞儀をした。



「あなたにも、本当にすみませんでした」

「あ…」

 
 
沙織さんはそう言うと、くるりとあたしに背中を向けて出口へと歩いていった。
 
呼び止める事も出来ずに、あたしはただそこに佇む。

 
自分で言わないとダメだよ、と思う気持ちと、

何故か泣きたい気持ちがぐるぐると回っていた。
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