嘘カノ生活
 

「……あ」



緊張、してる。

壁に身を任せて、俯きがちに目を伏せる間宮さん。

手に持っている携帯を開いては閉じ、開いては閉じ。

時折ぐっと唇を噛み締めている。


あんな間宮さんはあまり見たことがないけれど、

それでもなんとなく分かる。


間宮さんでも緊張するんだ。

普段はそんな一面見せてくれないから、

見たらいけないような気持ちと、いじめたくなる気持ちが生まれる。


あたしは止まっていた足を動かして、間宮さんに声をかけた。


 
「間宮さん」

「うわっ!」

 

間宮さんはびっくりした顔を見せると、

「……おお」と言って自分の感情を押さえているようだった。

それを見て、あたしはおかしな気持ちになる。

ふふ、と笑うと間宮さんが「なんだよ」とぶっきらぼうに睨む。



「あたし、見ちゃいました」

「は?何を…」


 


 

……それは、いつかの言葉で。

1番最初の、きっかけで。


"俺、見ちゃったんだよね"

"はあ?何をですか"


あれがなかったら、きっと今もない。

今、こうして隣にいない。

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