嘘カノ生活
「い、今のやっぱりなし…」
「じゃあ、壮って呼んだら放す」
「え?」
「ほれ、言ってみ?そ、う」
子供をあやす様に口をゆっくりと動かす動作。
からかうような、そんな仕草。
「む、無理です…」
自分でもこんなの変だとは思う。
付き合って何年も経つのに、名前を呼ぶのが恥ずかしい。
咄嗟に出てしまうときもあるけれど
こうして改めて催促されるとどうしても言えなかった。
「俺、待ってんだよ。"壮、朝だよ"って言われんの」
「だって…」
「そうすりゃ俺の目覚めなんか冴える冴える」
「でも…」
「…。だって、とか、でもなら言えるのになー、お前は」
「だって…。は、恥ずかしいし」
「今更?」
あたしが恥ずかしいと漏らすと、きょとんとした顔でそう返してくる。
間宮さんは昔からあたしの事名前で呼ぶからそう思うかもしれないけれど。
途中で呼び方を変えることの恥ずかしさがわからないんだ。
「じゃあ、朝だけで良いから。朝だけは"壮"って呼んで起こして?」
「朝だけ?」
「それなら良いだろ?」
なんというか、有無を言わせないような迫力。
あたしはそれに思わず頷いてしまった。