あの頃の俺はきっと嘲笑うのだろう
「皇帝」


「……………」


今となっては聞き慣れた、憎たらしい声に俺は顔を歪め無言で見やった
そんな俺に呼んだ男は大袈裟に溜め息をつく


「返事くらいしてくだせぇよ」


「…用件だけを言ってさっさと失せろ」


威厳を出して言うが、この男はただ呆れたように肩を狭めた


ブラウンが混じるオレンジ色の癖髪を短く切った、少々たれ目ではあるが整った顔たちをしたこの男、名はイラリオ・アギルレと言って親父が勝手に付けた昔からの俺の守役だ
気は合うのだが少々過保護でうっとおしい奴である


「…本当、ランスは昔から素っ気ない」


ちなみに主従である俺を同等のように扱うのはこいつだけだ


「リオ、俺が言ったこと覚えてるか
用件を述べたら即刻立ち去れと言っている
俺は今考え事をしているんだ」


俺の言葉にイラリオは息を吐くと小さな苦笑を漏らすなり平伏し口を開いた


「皇帝、…いや国王陛下。
例の船が港に到着しました、御確認を」


うやうやしく言われたその言葉を聞いて俺は顔を歪めた


「随分と遅ぇ到着だな」


自然とでた重たい溜め息に眉を寄せたが、あまり気に止めず港近場の貸切状態であった酒場の椅子から重い腰をあげた




 

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